「無防備なセックスをしてしまった場合や、避妊に失敗した場合、あるいはレイプの被害に遭ってしまった場合など」
 …主にこんなとき、事後緊急避妊は利用されます。
 しかし、きちんと避妊したつもりでも、妊娠してしまうことはあるものです。
 避妊はしたけどどうしてもどうしても心配になってきた…というようなときは、微妙な選択かもしれませんがこの方法を取るのも手です。
 2002年5月、わたしは、そうしました。


 コンドームはいつものようにしっかり使いました。
 が、あとからよく考えてみると、どうも基礎体温の動きが微妙だったのです。
 その周期は、引越しの騒ぎであまりきちんと体温測定を出来ない日が多く、低温なのか高温なのかわからない体温が多く記録されていました。
 セックスのあった頃にはどうやらすっかり高くなっていたようでしたが、引越し疲れのためやや風邪気味で、熱っぽかったのが気になりました。
 その後、風邪は完治、通常の体温も平熱、基礎体温は高温。つまり、セックス後は少なくとも、完全に高温期に入っていたということです。
 しかし、肝心の「高温期に入った時期」…つまり「排卵時期」がいまいち、うやむやになってしまいました。

 わたしの生理周期はやや不安定で、短くて30日前後、長いと40日近くなります。
 セックスのあったのが周期24日目。
 30日前後の周期であれば、もう生理直前になっています。妊娠の可能性はかなり低くなります。
 しかし、40日周期くらいだったら…完全に排卵時期と重なっていた恐れが出てきます。

「コンドームもしたのだし、排卵時期を外している可能性もあるわけだし…万一排卵に当たっていたとしても、確実に妊娠するわけでもないし…生理が来そうなお腹の痛みもある気がするし…」
 と、少しの間はそんな考えも頭を巡りました。
 でもそんな適当な考えでは駄目です。
 何しろ、日ごろから他人様に
「避妊をしていようが、排卵時期を外していようが、セックスした以上妊娠の可能性は絶対にある」
「自覚症状はあてにならない。特に、妊娠を非常に気にしているような状況では、気のせいでいくらでもややこしい症状を感じる」
 と言っているような自分です。自分が不安なときだけ都合のいいことを考えようなんて、とんでもないことです。


 翌日朝、相方といっしょに、隣の駅の近くにある病院へ行きました。
 その病院を選んだ理由は、
 ・自宅からあまり遠くないこと
 ・Webサイトに「緊急避妊を扱っている」との記載があったこと
 ・さらに、「手遅れになる前に問い合わせをください」との一文があり、これで「よし、ここにお願いしてみよう」と決心がついたこと
 などです。
 診療時間は9時からでしたが、電話してみたところ「早くてもいいですよ」とのこと。8時半ごろに入れました。

 ふつうの初診時と同じように、初潮の時期、生理周期、妊娠経験の有無etcを紙に書き込んで、いざ診察室へ。

 普段の周期がやや不安定であること。
 基礎体温が現在は間違いなく高温だけど、いつから高温だったのかが曖昧なこと。
 これらを話すと、先生も「微妙だなあ…」とちょっと頭を抱えてました。
「排卵が終わってしまっているとすると、緊急避妊では着床阻害がメインになるわけです。排卵前だったら、排卵そのものを遅らす効果もあるんだけど…」
「72時間ぎりぎりだから、早めの服用よりは確実に効果が落ちます。これまでうちで緊急避妊をした人たちは、みんな24時間とか36時間とか、比較的早くて、失敗例はまだ一度もないんですが…」
「副作用はほとんど出ません」
 ともかく、あまり迷っている暇はありません。このとき、既に緊急避妊の(一般的な)タイムリミットである72時間が迫っていたんです。(70時間弱というところ)
 中用量ピルを処方していただけることになりました。
「この方法を繰り返さないことね」
 と先生には念を押されました。もちろんです!と意気込んで答えたら、看護婦さんともども苦笑してました。

 まず手渡されたのは、同意書でした。
「ここに名前を書いてね。今から緊急避妊のことを詳しく説明しますから。そしたら、この場で2錠飲みましょうね。今、ピルとお水持ってきます」
 緊急避妊にも同意書があるのですかー。知らなかったよ…。文面はあまりよく覚えていません(こら)。きちんと覚えていれば、ここにも書きたかったのですが…。ちなみに、ハンコを押す欄もありましたが、署名しただけで終わってしまいました。(中絶手術の同意書ではないので、署名は本人のものだけです)

 ほかに、緊急避妊について詳しく書かれた紙をもらいました。これについてはのちほど。


 コップの水と一緒に渡されたのは、プラノバールでした。
 うわぁやった、プラノバールだ〜。…と、内心ほくそ笑むワタクシ。いや、中用量ピルでは何となくプラノバールが一番好きなんです。名前が。
 これがピルか〜。わー初めて触っちゃった。小さくて可愛い錠剤なのね〜。この中にホルモンがごそっと入っているのね〜…
 と思ってちょっと見つめてたら、看護婦さんが「そんなに構えなくてもいいのよ」と笑ってました。
 すみません、それはどうでもいい話ですね。

 この病院では、事後緊急避妊用の中用量ピルは、4錠のみの処方でした。つまり、嘔吐対策としての余分な処方はしてくれないということみたいです。
(看護婦さんがはっきり「4錠だけしか出せませんので…」と言っていた。「吐き気がしてもがんばってください…ひどいこと言うみたいでナンですけど…(^^;」とも(笑))
 下痢とかにも注意してくださいね、と言われて、つい

「万一お腹が痛くなっても、トイレ行かずに堪えたら吸収されますか?」

 などととち狂った質問をしてしまい、笑われました。ええ、看護婦さんが机に突っ伏す姿、一生忘れられないでしょう。
「いや、そうじゃなくて、冷たいものやナマモノ控えるとか、体冷やさないようにするとか…ね?」
「ははは、そ、そうですね、はは…」
「ねー?笑い話みたいでしょう?笑い話なんですよ、実際…」

 こんな笑い話みたいなこと、繰り返しちゃダメですよ?

 暗に、看護婦さんの笑顔がそう語っていました。

 でも、「避妊」だから、こんな風にある意味和やかに、お互い笑っていられるんですね。
 これが「望まない妊娠」をしてしまってからでは、とてもこんなにこやかな会話はできないと思います。

 ほかに看護婦さんからは、
「12時間経ったら、忘れずに残りの2錠を飲んでくださいね。絶対に忘れないでくださいね」
「普通にこのピルを飲んでいる人の4倍量を1日で飲むわけですから、体への負担は大きいと考えてください」
「ピルを飲んでも、妊娠してしまうことはありますので、覚えておいてくださいね。ただ、その場合赤ちゃんに薬の影響はないと言われてます」
「万一失敗してしまったときは、前向きに考えていただくか、どうしても無理…ということであれば、その時はまたこちらでご相談に乗らせていただきます」
「特にこの後、あらためて来ていただく必要はありません。でも、生理が来たら、そのことをお電話でお知らせくださいね」
「ところで、この方法はどうやって知ったんですか?」
 …という感じでお話をしてもらいました。

 そうそう、
「吐き気の対策に乗り物用の酔い止めを飲むというのを聞いたことがあるんですが…」
 と言ってみたら、
「え?う〜ん…あまり効かない、かも…」
 とのことでした。

 費用は6500円でした。
 もっとも安いところで数百円、もっとも高いところで数万円という話ですから、妥当なところだったと思います。
 実はこのとき保険証を持っていなくて、提出できなかったのですが…これがあったらもしかしたら、うまいこともう少し安くなったのかもしれません。


 あ、ところで。
 ここをご覧になってるかたがいちばん気になるのは、ピル服用後のこと…特に、副作用のことではないでしょうか。
 処方までのやりとりでこんなに長々書いてしまってすみませぬ。


 気になる副作用なのですが…
 先生が「ほとんど出ません」とおっしゃったとき、「いや、出ない人はいるにしても、ほとんど無いってことは無いんじゃあ…」と思ったのですが。

 実は、

 それらしい副作用は全くと言っていいほど出ませんでした


 1回め・2回目とも、服用後数時間くらい、若干の頭痛とめまいがあったかな?というのと、
 2回の服用を終えて就寝し、翌朝起きたときに体がだるかったのと。
 強いて言うならそのくらいです。
「自分は本当に中用量ピル4錠も飲んだのか??」と疑いたくなったほどです。
 かなり強い副作用――特に強烈な吐き気を覚悟していたんですが。(なんとなくですが、体質的にそういうのが出やすいような気がしていたので)
 相方は「何とも無かったなら良かったじゃないか」と喜んでくれましたが、こんなにあっけなくていいんだろうか、なんて、変な罪悪感があったくらいです。



 さて、服用後の生理(消退出血)についてです。
 ピル服用から5日で出血が始まりました。
 出血量は多め、生理痛も有り。ふだんの生理とほとんど同じ感じでした。
 翌日、病院に電話。
 無事に出血したことのほかに、副作用がほとんど無かったこともお話しました。すると、
「出ない人が多いんですよ。でもたまに、びっくりしちゃう人(これは『ひどい副作用にびっくりする』『体がびっくりして強い副作用が出る』のどちらだろうか??)もいるんです。だから、一応副作用についてもよくお話しておかないとならないんですよ」
 とのお返事。


 毎月緊急避妊を繰り返して主治医に怒られてしまった…というような話を、どこかで見たことがあります。
 毎月服用できてしまうくらいですから、その人も強い副作用は出なかったということかもしれません。
「緊急避妊のピルを飲んだのに、副作用が無い。これって効いてるの?」という相談を、数件目にしたこともあります。
 先生が「ほとんど出ない」と話していたのを考えても、事後緊急避妊の副作用があまり出ない人というのは、決して少なくないのかもしれません。
 もちろん、副作用が出ようが出まいが、体に大きな負担がかかっているのは事実です。
「死ぬかと思うほど副作用がつらかった」という人がたくさんいるのも事実です。
 が、さほど強い症状が出ないこともしばしば、あることはあるようです。



 そういえば、受診のとき「コンドームは使った」ということを言うの、忘れてました。(をぅい…)
 先生も看護婦さんも、わたしがコンドーム使うのさぼったと思ってるかなぁ。


 ピル処方時にいただいた、緊急避妊の説明書についてはこちら...


[2003.8.11. 追記]
 こちらの産婦人科にお世話になったのは、このとき1回きりです。
 その後、もっと近所の病院で低用量ピルを処方してもらうようになり、
 現在はさらにかかりつけの病院を変え、順風満帆(たぶん!)のピルライフを満喫しています。
 あのとき緊急避妊という選択をしたことは、後悔していません。
 身体には負担をかけてしまいましたが、万が一の妊娠を避けられたこと、低用量ピル服用にあたってピルへの親近感がさらに強まったこと、
 何より、多くの方々がこの体験をお読みくださり、ひとつの情報として参考にしてくださっていること、
 とても感謝しています。
 あたたかく指導してくださったN産婦人科のみなさま、本当にお世話になりました。
 そして、
「緊急避妊をしようと思うんだけど」
 と相談したとき、わたしの不安を感じ取ってくれて、「一緒に行くよ」と言ってくれた相方、あなたがいたから最後の一歩を踏み出せました。ありがと。

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